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シェーンベルク/浄められた夜 ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 |
1974年がシェーンベルク生誕100年にあたり、我が国では私の記憶が間違えでなければ、その2年後の1976年の発売ではなかったかと思います。
マーラーの音楽さえ録音していなかったカラヤンが、「新ウィーン楽派」の音楽を録音するとは誰も想像しなかっただけに、しかもそれがアルバムとして登場し誰もが驚いたものです。そしてこの大変美しいジャケット写真もことのほか印象に残り、カラヤンの見事な演奏と相まって忘れることが不可能と言えるほどの名盤となったのでした。
この作品には、作曲するきっかけとなるリヒャルト・デーメルの「女と世界」という詩集が存在し、その中の同名の詩に基づき作曲されました。詩の大意は、<月夜の晩、冬枯れた森の中を一組の男女がそぞろ歩きをしている。女は男と出会う前に別の男に身をゆだねた結果、みごもってしまったと告白。男はそれを許し、月夜の降り注ぐ浄夜を讃え自分の子供として育てることを誓う。>というもの。
カラヤンの「浄められた夜」の演奏は、意地悪な批評をする人は「生演奏では実現できない録音芸術の見事さ」みたいなことを言いますが、所詮は指揮者の能力と耳であり、奏者の腕なのですから。
とにかくここでのカラヤンの耽美なほどの弱音の美しさから見事なまでの劇的表現まで、そして全体を包み込む官能的な表情を是非聴いてほしいと思います。
弦楽合奏部だけでこれほど多彩な音色を聴くことができる演奏は驚くしかありません。
まずは冒頭は暗く寒々とした木立の中をそぞろ歩きする雰囲気を描写します。
最初のヴィオラとチェロの二分音符でのばす音からもう変化しました。深い響きで二つの楽器の音色もわかるようになりました。
そして三小節目から入ってくる同じヴィオラとチェロがぐっとより暗い音色で始まるのです。同じ楽器でありながら冒頭開始と三小節目では表情にコントラストがあることが聴き取れました。
そしてそれがヴァイオリン群に受け継がれ全弦楽器のアンサンブルになると、音色の重なる様が見事に聴こえ、月あかりが降り注ぐこれから始まろうとする詩的な世界の雰囲気が伝わってきました。
Remaster Ring を貼ると、音と共にこういう細かな表情を聴かせてくれるところが素晴らしいと思います。
2分14秒から心の葛藤を思わせる起伏にとんだ音楽が始まるのですが、すぐに現れるP(ピアノ)から32分音符でクレッシェンドをする箇所も細かい音を刻む1つ1つがきちんと伝わってきました。
女が心情を吐露する部分が3分25秒から始まりますが、ここでは時に弱音器を用いたり、時にソロでの演奏になったりと音色が変化するのですが、カラヤンの滑らかな音楽のつながりの中でもそれが見事に聴き取れ、女の心情が空間にポッと浮かび上がるように聴こえるような音楽的描写が素晴らしく、背景の静けさも伝わってきます。
本当に寂しげです。
やがて女が激していき、音楽が主題の展開とともに強奏して頂点へ向かい、突然調性が長調に変わる(トラック2冒頭)フォルテシモとピアニシモのコントラストがある部分も見事に再現され、激情しながらも一方で幸福に憧れる女の心情が伝わってきます。
トラック2に入り、幸福に憧れる女の心情の部分はこの曲前半の最も美しい部分で、本当に「憧れ」の表情が官能的な表情で奏でられ、聴き入ってしまいます。
しかしそれもつかの間、1分20秒のヴィオラが苦しげなメロディを弾き始める部分は、そのヴィオラ特有の音色が女の憧れに溢れる表情と同時に苦しみの表情が入り込むようで、ソロの演奏でありながらはっきりと音楽の意味が伝わってきます。
音楽は「おののきながらも見も知らぬ男性にわが身を抱かせ」る場面に入っていき、不気味なその打ちひしがれた様子の音楽が始まりますが、2分22秒の短く激しく上行するヴィオラとチェロの高音特有の張りのある音色がより際立ち、また3分19秒で突然、弱音器でPPP(ピアノピアニシモ)になる部分にはハっとさせられ、女の心情の揺れのような、一瞬我にかえりそれを自分に言い聞かせるような、恐怖感のようなものがいっそう伝わってきました。
こうしてRemaster Ring を貼って改めて聴いてみると、演奏の大きさ、全体的な暖かい音色、音色の変化の際立ち、表情の深さ、そして細やかさといったものがより良く聴き取れるようになったと言えます。
後半は、より美しい旋律に彩られカラヤンとベルリン・フィルの官能的とも言える世界が展開します。どうぞ Remaster Ring を使ってどのように変化するか、聴いてみてください!録音芸術だけではない、実際の演奏の音楽的内容があふれんばかりに聴き取れるはずです。
